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検見川送信所をめぐって-「『廃墟』は人間の無関心を表す鏡だ」<2>
―久住コウ氏<2009年6月に収載>

新・大分県立図書館の内部
▲▼新・大分県立図書館の内部 ©久住コウ
新・大分県立図書館の内部

こちらは1995年竣工の新・大分県立図書館。こちらも、磯崎が手がけました。キューブ状の建物で、外見はシンプル。正直言うと、それほど面白さはない。

ただ、中に入ると、また違った印象を持ちます。光の取り入れかたが巧み。天井まである吹き抜けロビーは心地よい開放感と閉鎖性が共存しています。

ドコモモ選定建築では、神奈川県立図書館・音楽堂(前川國男 1954年)もあります。ここにも見学に行かれた方はいるのではないでしょうか。建物から図書館を見るというのも面白いのでは、と思います。

旧別府電信電話局(1928年、吉田鉄郎設計)
▲旧別府電信電話局(1928年、吉田鉄郎設計) ©久住コウ

大分つながりで、次は別府です。こちらにも利活用の成功例があります。検見川送信所と同じ吉田鉄郎の設計です。

旧別府電信電話局(1928年(昭和3年)、鉄筋コンクリート造2階建外装タイル張り)は逓信省の建築物です。

旧別府電信電話局のサイド
▲旧別府電信電話局のサイド ©久住コウ

サイドは窓と雨どいの配列が絶妙。2列の窓の両サイドにある雨どいが引き締める。デザインの一部として組み込まれています。

ここは電話局としての役目を終えた後、別府市が譲り受け、庁舎となり、現在は別府市南部児童館になりました。

近代建築の保存の方法にはいくつかのパターンがあります。

  1. オリジナルな状態を完全な形で残す
  2. オリジナルな状態を生かしながら、現代風にアレンジを加える。

旧別府電報電話局は1.のパターンで、1998年(平成10年)7月18日、国の登録有形文化財になりました。

さて、中に入ってみましょう。

子育て支援センターわらべ
▲子育て支援センターわらべ ©久住コウ

1階は乳幼児から未就学児を対象にした「子育て支援センターわらべ」。フロアには幼児が楽しめる遊具や飾りがいっぱい。絵本を読んだり、オモチャで遊ぶことができる。

絵本ルーム
▲絵本ルーム ©久住コウ

絵本ルームは通常の床よりも少し高くなっている。聞けば、ここには元々、地下室があったが、現在は塞がれているのだそうです。入ってみたいものですね。

階段室
▲階段室 ©久住コウ

窓ガラスもほとんど当時のものがそのまま。昔のガラスは厚さが均一ではなく、光が反射すると、すぐに分かります。

児童館
▲児童館 ©久住コウ

2階は乳幼児から中学3年までを対象にした「児童館」。図書館兼学習室と広いプレイルーム。図書館と言っても、ゲームもある。インターネットにも接続できるなど最新鋭。

フロアにはこどもたちが駆け回っていました。撮影していると、10歳くらいの男の子が物珍しいそうに寄ってくました。

「ここ、好き?」と聞くと、笑顔を見せました。子供たちは元電話局であったことも知っています。歴史はしっかり次代に受け継がれているなぁと思いました。

旧別府市公会堂
▲旧別府市公会堂 ©久住コウ

別府市は大正13年(1924年)に市制を施行しました。その際、「泉都別府に公会堂がなきは一大欠点とする所なり」との声が上がり、別府市公会堂建築の話が持ち上がりました。

当時の助役、笠置雪治氏の知人が吉田の恩師だったことから、白羽の矢が立ったのです。

吉田は1926年(大正15年)4月に設計を開始しました。ちゃんと記録が残っているんです。

ちょうど検見川送信所の竣工を見届けた時期です。

スウェーデンの代表的な近代建築「ストックホルム市庁舎」(設計ラグナル・エストベリィ)に深く感銘を覚えていた時期で、その影響が見て取れる、と言われています。

飾りレンガが施されている
▲飾りレンガが施されている ©久住コウ

昭和2年に着工し、翌3年3月に竣工。総工費は当時43万円。

外観は老朽化しています。遠くから見ると、一瞬、鉄筋コンクリートなのかと見間違うが、飾りレンガが施されている。その配列も一風変わっている。

平成6年11月25日には、大分県下、最古級の鉄筋コンクリート建築として、別府市指定有形文化財になり、別府市中央公民館として使われています。

目に飛び込む標語
▲目に飛び込む標語 ©久住コウ

内部に入って、最初に目に飛び込んでくるのは「来たときよりも美しく」という標語。大切な文化財だから、大切に使いましょうという心意気の現れ。訪問した時は宮沢りえが主演した反戦映画「父と暮らせば」の上映会を行っていた。終戦記念日に合わせた企画のようです。

窓からは面白く光が差し込み、2階と3階の間には空、雲、月、星をモチーフにしたステンドガラスが飛び込んでくます。さらに階段を上がると、屋上の★のモチーフ。吉田鉄郎は公会堂に空を閉じ込めようとしたのかもしれません。

別府市中央公民館の屋上を望む
▲別府市中央公民館の屋上を望む ©久住コウ

屋上からは別府市内を一望できる。

公会堂は3度に渡る大改造を行っています。竣工当時の方が遥かに素晴らしいプロポーションなんです。だから、竣工当時の姿に戻そうという動きもあります。市職員に復元計画を聞いた。耐震強度を検査し、その後、予算を組むといっていました。その後、どうなったでしょうか。

利活用されている、2つの建物の素晴らしさは分かっていただいたと思いますが、この2つはさきほどのドコモモ選定には入っていないんです。だから、ドコモモに選ばれる検見川送信所はすごいんですね。

建て替え工事中の東京中央郵便局
▲建て替え工事中の東京中央郵便局 ©久住コウ

ドコモモ選定には、吉田鉄郎建築が3つ選ばれています。ひとつは鳩山大臣の発言をきっかけに注目を浴びた東京中央郵便局。国宝級の建物ともいわれましたが、1998年には既に選定している。その先駆性と確かな目を感じることができます。

もうひとつは大阪中央郵便局。こちらも再開発を計画していて、取り壊しが議論を呼んでいます。東京中央郵便局での議論を受け、現在は計画が凍結されています。こうして、メディアに大きく取り上げられることの意味は、ほかの建築にも大きな影響を与えるという好例だと思います。

文化財との向き合い方は、その町の歴史とそのままリンクしているように思えます。歴史ある町はそれを大事にする。人は何でも新しいものを求めるが、実は古いものこそ資産、町の宝なんです。古いもの、文化、伝統は一朝一夕ではなし得ない。だから、文化や人を育てる図書館の存在は大事なんですよね。

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